スモーキング・クリーン
手足の縺れ、断舌の孤高たるが故の過ち。
煙草でも吸おうかな、否、吸うまいかな。
否、ここで吸わねば、この瞬間の怒りを回避できないのではないのか。
ここで、この刹那に吸えないようなら、私は一生煙草が吸えぬ。
ここで吸えなければ私は駄目だ。
一生うだつが上がらぬまま、終いにはオーバードーズなんぞでくたっばってしまうのだ。
そうだ。決めた。私は今、煙草を吸う。
躊躇などいらぬのだ。
戦場では一瞬の迷いが己を死へと追いやるのだ。
吸うぞ。決めた。おっしゃー。煙草。
と意気込み、且つ己を窮地に立たせ、煙草を吸う決意を表明したにもかかわらず、
煙草の箱が空箱だったので又怒り狂いそうになりました。
暫く悶々と煙草を吸うイメージを膨らませながら、
ひたすらパーソナルコンピューターに向かっていたのですが、
我慢の限界、悟る一歩手前まで来てしまっているので、
コンビニエンスに行って参ります。否、行かねばならぬのです。
私は現状の『煙草がない』という状況を『優しさがない』という状況に転換して考えてみることにしました。
誰にも優しくされず、勿論政府や、非政治団体、ボランティア団体からすらも優しくされない状況をイメージしてみます。
嗚呼。私だけ税金が高い。
嗚呼。私が募金しようとしたら拒否された。
嗚呼。国勢調査が私の所にだけこない。
嗚呼。人体実験の被験者になれとDMが腐るほど届く。
嗚呼。キャッチセールスが私の前で列を作っている。
嗚呼。『貴方の人権を剥奪いたしました』という旨の封書が政府機関から届いた。
いかん。やれん。
辛い。
手遅れになる前に早く煙草を購入せねば。
私という人間が、人間であり続けるためには煙草を吸わねばならぬのだ。
煙草煙草煙草煙草。
かかる生活に終止符を打つためには、何はともあれきっかけが必要なのだ。
煙草一つがそのきっかけになるならば、健康被害など二の次。
やれ肺癌になるだの、やれ脳細胞が死ぬだの、もはや言っていられる場合ではない。
私は健康よりも、この怠慢、怠惰極まりない生活態度を悔い改める段階に突入しているのだ。
閃きと発想。研鑽と努力。
私に欠落している要素を補うためには、煙草を一服やることが必要不可欠なのだ。
行ってきます。
…
行ってきました。
道中様々な困難が立ちはだかっておりました。
極寒の寒さと、狂化しそうな程の静寂。
通り魔、追い剥ぎ、盗賊、ゲリラなどの類から身の安全を守るために、
低い体勢をとってにアスファルトの上を闊歩しておったのですが、
そこは敵も強者。
百戦錬磨で群雄割拠。
若いおなごをも戦場に送り込んでくるという暴挙ともとれる行動にでた。
若いおなごは顔面を黒く塗り迷彩しておるよう。
年の頃は16、7。ひめゆり部隊と思われる。
敵は自転車という文明開化の産物に二人で跨り、私と対面するように走行、しかも無灯。
夜間の戦闘に手慣れた強敵と判断した私は、
自分が明るい色のダウンジャケットを着ていることに恐怖、後悔し、
それを脱ぎ裏返して着ることを閃き、実践した。
女兵は、私に気付くこともなく、
『なにそれ。マジうけるんだけど〜。』
と、兵同士の何気ない会話に夢中でありました。
今思えば、イントネーションが少々不自然であるところから推測するに、
南蛮人、若しくは伴天連の国の兵だったのではないだろうか。
ついに我が国も世界の侵攻を許してしまったのであろうか。
そのような報道は、未だ表沙汰になっていないだけで、
終ぞ第3次世界大戦の火蓋が切って落とされようとしているのか。
聞いていないぞ。そんなこと。
私は戦き、急いで目当ての煙草を購入し、走って帰りました。
そして、そのような情報が流出していないかインターネットを徘徊し、
情報を得ようとするも、情報が著しく不足している。
政府が絡んでいることは、火を見るよりも明らか。
私は気付かされたのだ。
私に「これから始まるこの戦いを止めてくれ」というメッセージを発信している人間が何処かにいるのだ。
やらねばならない。
やられる前にやらねばならぬのだ。
そして私は踊りました。
くねくねと、平和の踊りを。
では一服致しますので、少々お待ちください。
…
やっと煙草も吸えました。
一服するのにも努力が必要なのです。
加藤は努力を覚えた。
ただ今、レベル3。
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