情報は何時も己の知らぬ間に
人類の最大にして最高の目標は1つになること。
そう高らかに宣言してから、私は幾度此の感情に苛まれたでしょうか。
こんな目標を掲げる人間は阿呆だ糞だ下手人だと、道行く方達には散々叱咤罵倒され、
さも私が吐き溜めに片足突っ込みながら雑踏を彷徨っている畜生であるかのように、
人々は私のことを偽善者であるとか、赤であるとか散々仰って下さいます。
貴重なご意見であると思います。
と同時に「私の言いたいのはそこだ」と毎度毎度思うのであります。
私の行動の一切合切を勝手に決めつけて、自分一人の中で解釈するならまだしも、周囲の人間にまで「加藤は真っ赤な似非平和主義者の理想主義者」のような発言を繰り返し、徹底した情報操作を繰り返すのです。
初対面の方とカフィなどをやりながら四方山話に華を咲かせていると、
「ところで加藤さん、宗教家なんですってね。」
ピキーン、シャリーン、ずぶぶ。
耳と脳を劈く音が木霊します。
こらこらこら、だれやそんなん吐かしてるやつは。
面倒くさいのと話が長くなりすぎるのを避けるため、
その時点で特別否定はしません。
私の考えるところの宗教は、入るものではなく己で切り開くものだと考えているため、
強ち外れてもいないかなと。
どういった意味で「宗教家」と仰っているかは存じ上げませんけど
また私の知らないところで、私が一人歩きしているのね。
またある人と猥談なんぞを楽しんでいると、
「そうそう、加藤君て無政府主義者なんやってね。」
でた。これこそ情報操作の真骨頂。
私は常々「断固たる政府の確立が群衆の自由を獲得するための最も重要なエレメント」と謳ってまいりました。
と言うのも、世界が統一国家となったとき、世界に一つだけの政府を設け、
全ての秩序を統一することこそが、即ち『1つになる』と言うことであるからなのです。
アナーキズムとは全く逆の観点から考えているだけに、
ここは一つ完全否定せねばならん、と一瞬考えて踏み止まる。
是を一生懸命に否定したところで、得るものとはいったい何なのでしょうか。
この対面する人間の「私に対する情報」を正すことがそんなにも重要なことでしょうか。
先行する情報を知らない私が、新たな「私に対する情報」を流すことで、
又新たな偽物の情報が外部に流出してしまうのではなかろうか。
この悪循環を根絶やしにするためにも、私が此処で思いとどまらなくてはならないのではないでしょうか。
と、思い笑って誤魔化す。いひひ。
真剣な話をしていると「嘘やろ」と言われ、
ちゃらけた話をしていると、何の垣根もなく只皆は笑ってくれます。
皆は私を『お茶目な人間』と捉えているが故にそのような解釈をするのでしょうか。
それとも皆、真剣な話をすることが嫌いだから、真剣な話をしている私の姿を目の当たりにすると、
それを認めたくない、若しくはそんな話したくもないし聞きたくもない。
そのような観点で私を観ているが故の結果なのでしょうか。
私の声は私の佇まいと同等のものでないといけないのでしょうか。
声は姿を超越することはできないのでしょうか。
さて、逆バンドワゴン効果とも言えるこの情報操作を食い止めるために、
私はいったい何をしなくてはならないのか。
一つの方法として「誰ともコミュニケーションをとらない」なんて考え方がありますが、
私、社会の円滑な基盤作りの為に最も重要なことがコミュニケーションだと考えております故、
この方法は却下致したいと思います。
そら全ての人間が己のことを知らなければ、変な情報を流される事なんてなくなるでしょうね。
こんな話を皆さんはご存じでしょうか?
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『開く者と開かれる者』
地球上には様々な文明や技術が氾濫しております。
それは人々を助けることもあれば、只の贅沢な代物であったりもしていますね。
我々の生活はこれらの技術・製品に助けられて生き長らえていると言っても過言ではありません。
それと共に心の豊かさを蔑ろにしてしまう生活が人々の日常生活から垣間見られることも屡々あり、「物が豊富=心が豊か」とは言い難い世界が我々の世界です。
しかしながら、そんな贅沢な地球のあるところに、
『何もない村』
と言うものが存在していることを皆さんはご存じでしょうか?
その村には言葉の通り何もない。
あるのは「人・食料・住居・布を巻いただけの薄っぺらい服」だけなのです。
草むらや砂場に木や藁で作られた家。
畑を耕し、田植えをし、彼等は完全に自給自足の生活を行っておりました。
社会の日常生活に嫌気がさし、疲れ、逃げ出したくなった人々が暮らすその村では、
外部、つまりは我々が今現在暮らしているこの社会との関係を完全に断ち切っているのです。
鎖国時の日本のような状態です。
「アウトローの集団」という仲間意識からか、妙な犯罪、盗みや殺人等という出来事も一度も起きていませんでした。
村の周りは何十メートルにも及ぶ高い塀で囲まれており、
その塀の周りにはまた塀があり、その周りにはまた塀があり、と
幾重にも重なったその塀は外部との交信を断絶する防御策であり、
断固たる意志の象徴でもありました。
外部と村を繋ぐ入口は一つしかなく、そこには村の猛者達が交代で門番をし、
村に入ってくる侵入者を食い止める役割を担っておりました。
その村に住む人間は僅か100人ほど。
男性もいれば女性もいる。その村の中で子供が生まれたりもしていました。
父親も母親も、子供達に「自分たちは社会の敗北者」であるとは頑なに伝えずに、
この暮らしが普通なのだ、という生活を刷り込んでいきました。
「いい?坊や。あの塀の外には悪魔がいっぱいいるの。あなたはあの塀の外には絶対に出てはだめよ。悪魔があなたの脳味噌と心臓を剔って食べちゃうんだからね。あなたが外にでちゃったら、きっとあなたの中身は空っぽになってしまうわ。だからあなたはこの村でみんなと一緒に畑を耕したり、布を織ったりして成長していくのよ。解ったかしら?坊や。そう、いい子ね。」
テレヴィジョンやレイディオ、インスタント食品やその他様々な商品の存在など、
知る由もないまま、子供達は成長していくのです。
何も無い村に、何も知らない子供達。
それでも彼等は笑顔を振りまき、子供同士で楽しそうに遊んだりしていました。
そんなある日の事。
村の一つしかない入口の方で、なにやら大人達が大勢騒いでいるようです。
「いい?坊や。あなたは家の中でじっとしていなさい。何があっても外に出てきてはだめよ。ましてや外を見ることもしてはいけないわ。家の中で耳を塞いでじっとしているの。私達が迎えに来るまで、絶対に外に出てはいけないわよ。」
全ての親たちは子供達にそう言い聞かせ、村の入口の方へと向かっていきました。
大人達の形相は今までに見たこともないような焦りで満ちあふれているようです。
子供達は家の外で遊びたかったのですが、その大人達の表情に圧倒されて、
口答えが出来ないほどでした。
子供達は待ちました。
耳を両手で塞ぎ、目は力一杯に閉じ、両親が呼びにくるその瞬間を只々待ち続けました。
その時間は長く感じました。
2日、3日、本当はほんの数分だったのかもしれません。
子供達は恐怖と飢えに耐えながら、光が差すその瞬間を待ち続けていました。
やがて耐えかねた子供達が1人2人と家の外へと出て行きました。
その子供達は他の家で待ち続けている子供達を呼びに行きました。
肩を叩くと、待っていた子供は両親が迎えにきたと勘違いし、恍惚の表情で顔を上げましたが、
そこに立っていたのは子供。
「何で君が僕を呼びに来るの?お母さん達が呼びに来るまで外に出ちゃダメだって言ってたじゃないか。」
「それが…何かおかしいんだ。外に出てみたんだけど大人達は誰もいないんだ。」
驚いた子供が家の外に飛び出してみると、呼びに来た子が言っていたとおり、
外には大人らしき人物は一人としていませんでした。
辺りには待ちきれずに家の外に出てきた子供達が数人いるばかり。
いったい何が起きたというのでしょうか。
「大人達は村の外へ出たんじゃないか?」
誰かが言い出しました。
大人達は自分達を見捨てて、村の外へ出て行ったのだ。と考える子供と
悪魔の巣窟である村の外へ大人達が率先して行くはずがないではないかと考える子供。
子供達は言い争いました。
言い争っても答えは出ないと解ってはいましたが、彼等は言い争い続けました。
自分の親を愛するが故に子供達は言い争い続けなければならないと思ったのです。
そんなとき、村の入口の門が開く音がしました。
大人達に「悪魔の口の開く音」と教えられていた子供達は、その門の開くときの鈍い音があまり好きではありませんでした。
子供達は咄嗟に苦い表情をしてしまいましたが、両親が迎えにきてくれたとの期待から、半分笑顔で門の方へと走っていきました。
しかしその期待はあっさりと崩される結果となりました。
門を空けそこに立っていたのは、テレビカメラを抱えた男とレポーターらしき男。
カメラマンは大柄でスキンヘッド、褐色の肌に白いTシャツが似合うその男は、
一見ラガーマンのような風情を持ち合わせていました。
体はゴツいが心は優しい、そんな佇まいを臭わせるその男の肩にはバズーカ砲のような大きなテレビカメラが載せられていました。
レポーターの方は黒のジャケットに色の薄いデニムパンツ。
ジャケットの中の水色と白のストライプのボタンダウンシャツが爽やかさを醸し出しているのと同時にサラサラの髪の毛と、小豆色のフレームの眼鏡が伊達男を演出しています。
いかにも胡散臭さを丸出しているその様は、村の外の世界では詐欺師や博打打ちが打倒であると思わせる風体です。
私達はそれが何か一目で分かるのですが、村の子供達は外の代物を見るのは初めて。
子供達は咄嗟に身構え思いました。
「これが村の外に潜む悪魔だ。」
子供達は何の疑いもなくそう思うのでした。
悪魔が僕たちの脳味噌と心臓を剔りにやってきたのだ。
大人達のいないこの時をこいつらは待ち望んで、遂にその瞬間がやってきたので、挙って僕たちを食べに来たに違いない。
「何てことだ…。誰も居ないと思って来たが、子供達が大勢いるじゃないか…。」
「どうします?大佐。カメラ回します?子供全員モザイク処理してたらモザイクだらけになっちゃいますよ。」
「兵隊じゃねぇんだから大佐はやめろって言ってんだろ。この木偶の坊。」
その口ぶりからカメラマンの方がレポーターよりも立場が低いのが明らかです。
カメラマンは子供達を映すことに若干の戸惑いがあり躊躇していました。
それが良心の呵責からくるものなのか、仕事としてやりたくない仕事なのかは定かではありません。
「しょうがない。なるべく子供は撮らないように家とか塀とかを中心に撮るんだ。子供が映っちまっても後でカットするさ。」
「大佐は優しいっすね。僕もやっぱりここの子供達は撮らない方がいいと思ってました。」
「だろ?この優しさが出世する鍵だ。あと、その『大佐』ってのをやめねぇとぶん殴るぞ。」
子供達はそんなやりとりを只々見続ける事しかできませんでした。
何をくっちゃべってんだ、この悪魔達めという感情と、何をしでかすつもりだという感情。
恐怖と困惑で今すぐにでも両親に帰ってきて欲しいと祈ることしか出来ませんでした。
レポーターは子供に歩み寄り質問しました。
何故君たちはココにいるのか、何故子供しかいないのか、君たちは村の外に出ないのか。
「大人達は皆どこかに行っちゃった。それで子供だけが残されたんだ。僕たちは村の外に出てはいけないと教育されて育ったから大人達を村の外に探しに行くことが出来ないんだ。」
震えと緊張、悪魔と会話をしてもいいものかどうかが解らず、子供はそう答えました。
一人の子供は「悪魔と喋っちゃダメだよ」と小声で囁いていましたが、又ある子供は抵抗したって悪魔にはきっとかなわないだろうから、全てを正直に話すべきだと、子供達の間でも意見が分かれているようでした。
しかし目の前にある驚異を一掃するのが先だという共通意識からか、その口論は特別揉めることはありませんでした。
レポーターは悟りました。
子供達は何も知らないんだ。
自分たちの両親がどうなったかすら何も知らないんだ。
そして、事実を子供達に伝えるべきなのか、それとも知らないままこの村に住ませておくべきなのか、悩みました。
事実を伝えて、この子供達はどういった行動にでるのか大変興味がありましたが、それと同時に村の外の世界がどういったものかを教えたときの子供達の行動にも大変興味がありました。
外に興味を持つだろうか。
取り乱したりはしないだろうか。
その間、カメラマンは子供達を映さないようにと注意を払いながら、村の至る所をカメラにおさめました。
村の家々、田畑、洗濯場、墓場、火葬場、様々なものをおさめました。
この村の現状をドキュメンタリー番組にするためです。
「あの親たちの子供か…。気の毒だな…。」
カメラマンは呟き、子供達にチラリと視線を投げかけましたが、突然こっちを振り向いた子供と目があったので、咄嗟に笑顔を作り軽い会釈をしました。
一通り村の内部をカメラに取り終えたカメラマンはレポーターの元へと戻りました。
するとレポーターは子供達に取り囲まれて、何やら楽しそうにしている様子。
人混みの中からはレポーターの笑い声も聞こえていました。
「大佐。何やってんすか?村の中は一部始終撮り終えましたよ。」
「張本。ちょっと見てみろよ。こいつらチョコレート食ったことねぇんだってよ。俺のチョコ食わしてやったらハトにエサやってるみたいに取り合いになってやがんだ。笑えるだろ。あと、大佐はやめろよ。殺すぞ。」
子供達はチョコレートは疎か、この「外の世界から来た悪魔」の持ち物全てに興味を持ちました。
衣類、テレビカメラ、メモ帳、シャープペンシル、缶コーヒー等々。
初めて見るもの全てに興味を抱いていました。
子供達の中には、その初めて見るものが悪魔の代物であると頑なに触ることも見ることすらも拒む者もいました。
レポーターは子供達に、外にはこれよりもっと凄い物がいっぱいあると伝えました。
君たちの見たことも聞いたこともないような代物で溢れているのだと。
おいしい食べ物、様々な仕事、何でもあるんだ、と。
子供達は外への興味で胸がいっぱいになってしまいました。
「まずいっすよ。外の事教えちゃ。部長があんまし余計なことはするなって言ってたじゃないすか。」
「お前はいちいちうるせぇな。いいか?ここの子供達に外のことを教えて外に興味を持たせる。外に興味を持った子供達は必ず外に出てくる。しかし、その外の風景は自分たちが未だかつて見たことも聞いたこともないような風景な訳だ。その出てきた瞬間をスクープすれば視聴率も取れるし、部長も喜ぶ。このドキュメンタリーも大成功ってことだ。なんせノンフィクションだからな。取れるぜ〜。視聴率。」
「でもこの子供達の将来はどうなるんすか。この子達にも人権はあるんすよ。」
「ねぇよ。こんな死刑囚の子供に人権なんてあるわけねぇだろ。」
この子供達の親は犯罪者、しかも死刑囚だったのです。
村の外で犯罪を犯した親たちは、逃げるためにこの村を作り、高い壁でその村を覆い、籠城して暮らしていたのです。
幾度となく警察が扉をこじ開けようとしましたが、その度に門番が警察を皆殺しにして村の火葬場で夜な夜な燃やしていたのでした。
子供達が寝静まったそのときに。
レポーターとカメラマンは帰っていきました。
「いつか外に出てこいよ〜。楽しいことがいっぱいだからな〜。」
とだけ言い残して。
カメラマンは困惑した悲壮の表情でレポーターと子供達を見ていました。
出てくるなよ。
そう願うだけでした。
その晩、子供達だけでの会議が行われました。
外に出るのか出ないのかのその会議は朝まで続きました。
次の日もその次の日もその会議は続きました。
悪魔の囁きに乗せられてはいけない。
自分は両親の教えに則って、何があっても外には出ない。
村の中で両親を待ち続けるのだ。という意見と、
ここにいてもいつ両親が帰ってくるのか解らない。
それよりも危険ではあるが外に出て、こっちから両親を探した方が得策だ。という意見が真っ二つに分かれていました。
結果、外に出る組と村に残る組に分かれて、各々が自分の道を信じた行動を起こすことで決着がつきました。
外に出る組みは明日にでも外に出る、そう告げて村に残る組に最後の挨拶をしました。
ひょっとしたら帰ってこれないかもしれない。
その時は皆、仲良く暮らしてね。自分たちのことは忘れたって構わないから。
村にこんな馬鹿な奴等がいたんだ、と笑い話にでもしてくれ。
そう伝えて皆泣きながら寝床につきました。
次の日の早朝、子供達は皆は門のところに集まっていました。
出発のその時が来るのを待ち遠しいような、不安なような、しかし彼等の表情は逞しく見えました。
外に出て親を見つける。目標はそれのみ。
いざというときのために大人達が村の倉庫に隠し持っていた剣や散弾銃を携えて、彼等は外へと繋がるその門を開きました。
外で待ちかまえていたのはあのレポーターとカメラマン。
「来たっ!来たぞ!おい張本!起きろ!カメラを回せ!」
「何すか、こんな朝っぱらから…。」
「ガキ共が出てきたんだよ!いいから早くカメラを回せ!」
そそくさとカメラを回した張本(カメラマン)はまだ頭が睡眠から目覚めていないせいか、カメラの重みで体が蹌踉けていました。
しかしながら、そのカメラはしっかりと子供達をおさめていました。
レポーターとカメラマンは子供達に近づいて行き、
「やっぱり出てきたんだね。待っていたよ。さぁ外の世界を案内しようじゃないか。」
その瞬間、子供の一人が持っていた剣でレポーターの胸を貫きました。
カメラマンは何が起きたのかすらよく解らない状況でした。
只、持っているカメラのレンズに血が散布した現実を一瞬では理解するのが困難であり、唖然とした表情をしていました。
子供は立て続けにカメラマンの首を斬り落としました。
「村の外にいるのは全て悪魔だ。全ての悪魔は殺すことに『こども会議』で決まったんだ。」
子供は足下で倒れていた虫の息のレポーター背中を滅多刺しにしました。
レポーターとカメラマンは死にました。
その子供達は外で様々な物を目の当たりにしました。
様々な食べ物、機械、悪魔達。
それらは全て子供達には刺激が強すぎる物ばかりで、そんな社会に子供達は馴染めず、路地裏や日陰の場所を転々としながら両親を捜し続けました。
自分たちを見た悪魔達は口々にこう言いました。
「汚ねぇガキだな。お前等みたいなのがいるから治安はいつまでたっても良くなんねぇんだ。」
「物乞い?や〜ね〜。吐き気がするからあっちに行ってちょうだい。」
「可愛そうな子…。苦労しているのね。頑張ってね。」
子供達の心は荒んでいく一方でした。
言葉の意味はよく解りませんでしたが、自分たちが嫌われているのだというのは表情を見て解りました。
これが悪魔の恐ろしさなんだ。そう自分たちに言い聞かせるのでした。
優しい言葉をかけてくれる奴達は、自分を騙そうとしているのだ。
相手は悪魔だ。
様々な手段で自分たちを仕留めようとしているに違いない。
時に何人もの悪魔達を殺害しました。
彼等の村には法律は疎か秩序も明確にされていなかったので、何かを殺めることがいけないことであるという考えは全くなかったのです。
時々食料も略奪しました。
警察をも殺しました。
最早何も信じることすら出来なくなっていた子供達は、正に心を剔られたも同然でした。
これが大人達が言っていた「脳味噌と心臓を剔られる」と言うことなのか。
そう気付き始めていました。
そしてある日、電器屋のショーウィンドウのテレヴィジョンに自分の父親が映っていることに気がつきました。
自分の親はこんな小さな箱に入れられて、可哀想に。今出してあげるからね。
そして子供は散弾銃でショーウィンドウを割り、テレヴィジョンも剣で叩き割りました。
電器屋の店主は泣き叫びながら、
「あなた何て事をするの!あ、あなた今テレビで話題になってる殺人児童ね!何なの!何の用なの!」
何の事を言っているのか子供達には解りもしませんでしたが、子供の一人が問いました。
「今、この箱の中に入っていた人はどこにいった?」
「テレビに映っていた人のこと!?その人は死刑囚よ!死んだわ!女子大生を何人もレイプした揚げ句に殺し続けたのよ!あなた知らないの!?あいつ等は犯罪者だけを募って小さな村に高い壁を拵えて何年も籠城していたのよ!そこに軍隊が乗り込んで全員捕まえたって聞いたわ!」
「全員死んだのか?その時捕まった人達は全員死んだのか?」
「そうよ!全員死んだわ!」
失望。絶望。
愕然とした表情を浮かべ、子供達は電器屋を後にしました。
それと同時にパトカーがこちらへ向かっているのが見えました。
この少ない村外生活で学んだものの1つとして、白黒で赤い物が瞬く車を見たら逃げた方がいいと学習していた彼等は逃げました。
必死に何キロ、何十キロと逃げ続け、気付けば、高い塀に覆われたあの村へと戻ってきていました。
自分の親たちは死に、自分たちはもう村の外で行う目的を失ってしまったのだ。
もう戻ろう。もといたこの村に。
この現実を村の皆にどう伝えようか。
そんなことばかり考えていました。
戻った子供達は、村の子供達に全てを語りました。
自分たちの親が死んだこと、外にはいろんな機械や食べ物が溢れていたこと、誰も自分たちに優しくはしてくれなかったこと、孤独で辛かったこと。
様々な情報が頭の中に入ってきすぎて、今までの自分たちの生活が如何に不自由であったかが解ったこと。
両親が言っていた「悪魔に脳を剔られる」とは正にこのことなのだと解ったと、村の子供達に伝えました。
そして付け加えて、いろいろな人に追い回されたから、きっとこの村にも追っ手がやってくる。
その時に備えて門番を設け、入ろうとする悪魔の首を片っ端から斬り落とすのだとの規律を設けました。
それからというもの子供達は、入ってこようとするマスコミや警察を徹底的に殺害し、その死体を村の火葬場で焼き払いました。
来る日も来る日も子供達は侵入者を殺し続け、やがて大人になり、村の中で子供を産んだりしました。
その子供達には、自分が親から育てられたように教育しました。
村の外には悪魔が潜んでいる。絶対に出てはいけない。
出れば脳味噌と心臓を剔られるんだよ。
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と言うように、人々が万物の情報とコミュニケーションを取らなくなると、
この物語の少年達のように、自分たちだけの規律を設け、
それらと一般社会の秩序との相違が受け入れられないまま孤立し、
挙げ句の果てには全てを破壊してしまうと言ったようなことも考えられるように思います。
変な情報を流されないためにどうするかを考えるよりも、
どうしたら自分が信じてもらえるのかを考える方が大事なのですね。
責任の転嫁をしておりました。
やはり自分をしっかり見ないといけませんね。
私はコミュニケーションをひたすら取っていこうと考えております。
いつか皆に信じてもらえるその日まで。
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